こんにちは、理学療法士ランナーの大森です。今回は、運動やトレーニングに興味がある方にとってとても重要なテーマについてお話しします。それは「乳酸」と「マラソンのエンジン」である「ミトコンドリア」についてです。そして、これらがダイエットにもつながり、トレーニングで言うところの「レペティション」と大いに関連している理由も詳しく解説します。
ミトコンドリアとは?
まず、ミトコンドリアって聞いたことがありますか?よくダイエットにも良いとか育毛にも効果的とか言われるようになってきたのでご存知の方も多いかもしれません。簡単に言うと、ミトコンドリアは細胞の中でエネルギーを生産する工場のようなものです。中長距離・マラソンランナーにとってこの数こそがいわば「エンジン」に相当します。ミトコンドリアはATP(アデノシン三リン酸)を生成し、これがエネルギーとして利用されます。通常、持久力トレーニングにより、筋肉内のミトコンドリアの数が増えることが知られています。これが多ければ多いほど、私たちの体は効率よくエネルギーを使うことができ、脂肪を燃やしやすくなります。
ミトコンドリアの「呼吸能力」とは?
ミトコンドリア呼吸能力(mitochondrial respiratory capacity)は、ミトコンドリアが酸素を利用してエネルギーを生成する能力を指します。具体的には、ミトコンドリア内で行われる一連の酸化還元反応を通じて、化学エネルギー(主にATP)の生成効率を示します。この能力は、細胞全体のエネルギー代謝に強く影響を与えます。
ミトコンドリア呼吸能力は様々な要素によって決定されますが、ここではわかりやすく一つだけ「電子伝達系(クエン酸回路)の効率」と言った側面。ミトコンドリア内膜に存在する電子伝達系(複合体IからIV)がどれだけ効率的に電子を運び、酸素を還元して水を生成するかといった能力です。
この「電子伝達系によるエネルギー生成能力の早さ」をミトコンドリア呼吸能力と考えてください。ここで重要なことは楽に速いスピードを維持したいのであれば「早くエネルギーを作り出す必要」があるのでミトコンドリアの「量だけ」ではなくその「呼吸能力」改善が必要と言うことです!
乳酸とは?
運動するときに乳酸がたまると聞いたことがあるかもしれませんが、乳酸は、激しい運動中に筋肉で生成される物質で、筋肉の疲労感を引き起こす一因となります。しかし、乳酸はただの「邪魔者」ではありません。実は、乳酸が適切に生成されることが、ミトコンドリアの増加を促進するのです。
乳酸がミトコンドリア開発のスイッチ!八田先生の理論
八田壽(はった ひさし)先生は、東京大学大学院のスポーツ科学研究を主導している教授で、その研究の一環として、乳酸がミトコンドリアの増加に寄与するという理論を提唱しています。従来の理解では、乳酸は筋肉の疲労物質とされてきました。しかし、八田先生の研究は、乳酸が単なる副産物ではなく、実際には重要な信号分子として機能し、ミトコンドリアの生成を刺激する役割を持つと言っています。
具体的なメカニズムは↓
1. 運動によって筋肉細胞内で乳酸が生成される
2. 乳酸はPGC-1αという「ミトコンドリアの生成と機能を調節する因子」の発現を促進する
3. PGC-1αの活性化により、ミトコンドリアの生成が促進され、細胞内のミトコンドリアの数が増える
と言った機序となります。八田先生の「乳酸がミトコンドリアを増加させる」という理論は、乳酸の新たな役割を明らかにし、運動や健康に関する理解を深める重要な発見です。乳酸が単なる疲労物質ではなく、エネルギー代謝や細胞機能において重要な役割を果たすことを示しています。
レペティショントレーニングの重要性
海外の研究2選
では、どうやって乳酸を効果的に生成し、ミトコンドリアを開発していくのか?海外の論文を2つご紹介して方法を考えてみましょう。
まず1つ目は「Gibala MJ」氏達で研究された「 Short-term sprint interval versus traditional endurance training」といった研究です。これは、スプリントインターバルトレーニング(SIT)と従来の持久力トレーニング(ET)の比較に焦点を当てています。以下はこの研究の主なポイントです。
研究の方法は、健康な成人を対象にSITグループ「短時間の非常に高強度のスプリントインターバルを行う」とETグループ「長時間の中程度の強度で持久力トレーニングを行う」で数週間トレーニングしました
結果は①SITグループとETグループの両方で持久力の向上が見られた②両グループでミトコンドリアの量と機能が向上した。
と言うことです。この研究では高強度と中強度、どちらを選択してもミトコンドリアの量自体は増加するといった内容でした。ちなみにこの研究の落とし所は「SITは忙しいライフスタイルに適しており、持続可能な運動習慣として実用性が高い」と言った感じでした。ダイエットを短時間で成し遂げたい場合は「高強度」がお勧めということになります。
次に「Granata, C」氏といった方達による研究内容です。 この研究は、異なる強度のトレーニングがミトコンドリア「呼吸能力」に与える影響を調査しています。
内容は、29人の健康な男性に①スプリントインターバルトレーニング[SIT; ピーク出力の〜200%(WPeak)で4-10×30秒のオールアウト②高強度インターバルトレーニング(HIIT; 〜90%WPeakで4-7 × 4分間隔)&サブ乳酸閾値連続トレーニング(STCT; 〜65%WPeakで20-36分)のいずれかのセッションで4週間トレーニング(合計12回)を行いました。
結論としてミトコンドリア呼吸能は①のSIT後にのみ有意に増加しました。この研究の大事なポイントはトレーニングの強度がミトコンドリア呼吸能力改善に重要であると発見した点です。
2つの研究をまとめるとミトコンドリア含有量はどの強度でも増えるけど、より楽に速く走るためのミトコンドリア「呼吸能力」は「高強度トレーニングでしか改善されない」と言うことになります。
そしてこの高強度トレーニングをランナーに応用した練習こそ「レペティショントレーニング」です。
弘山監督のレペティション実践方法
レペティショントレーニングは、通称「レペ」と呼ばれ、決められた距離をほぼ全力で走り、しっかり休息をとって体を回復させながら繰り返し走るトレーニングです。200mから5000mまで様々な距離を提唱されています。レペのやり方について、ここでは筑波大学男子駅伝部監督弘山勉さんが書かれた「最高の走り」といった本を参考にします。以下の動画でポイントを要約してお話しされています。お時間あれば是非ご覧ください↓
弘山監督は筑波大学在学中、箱根駅伝に4年連続出場。1989年に資生堂に入社しマラソンのトレーニングを独学でおこない、1990年2月別府大分マラソン3位、同年12月の福岡国際マラソンでは2位に入賞した実力者です。現役引退後資生堂RCのコーチに就任。2007年から監督を務め、現在の奥さんである弘山晴美選手と結婚。指導者になってからも、弘山監督のマラソン理論はさらに探求され、その手腕は妻・晴美さんの活躍で実証されました。2015年4月からは、母校・筑波大学の陸上部男子駅伝監督に就任。国立大学というハンデを負いながらも育成を進め、2019年10月「第96回箱根駅伝予選会」で6位に入り、母校を26年ぶりの箱根駅伝出場に導きました。
前置きが長くなりましたが、その弘山監督が本の中で、レペについて次のように方法と目的を区分されています。
90秒(400m〜600m)走;90秒を全力に近い速度で走る練習ですが、実施する本数によって速度をコントロールし、最終走でオールアウトする(全力を出しきる)ようにします。解糖系のエネルギー代謝だけでは走りきれないため、乳酸系・有酸素系も使って走ることとなります。
60秒(300m〜400m)走:90秒走と同様に、自分の体力と相談しながら速度と本数を決定し、最終的にオールアウトするようにします。主に解糖系のエネルギー代謝になり、後半は解糖系が弱いほど乳酸系になり、スピード能力が(解糖・乳酸系が弱い)ほど有酸素系を多く利用しなければならなくなります。
40秒(150m〜300m)走;これも同様に自分の体力と相談しながら、速度と本数を決定し最終的にオールアウトするようにします。解糖系のみでエネルギーを産生できる時間なので純粋にスピード能力を刺激します。有酸素系を使う割合が少ない前提での動きや力発揮になるので、基礎的なスピード能力の向上や確認が主な目的となります。
本数に関しての詳細は載ってませんでしたが、私は90秒の場合「rest8分の1500mペース近くで3〜4本」・60秒の場合「rest6分の800m〜1500mペース近くで5本」・40秒の場合「rest3分の800mペース近くで5〜7本」くらいを経験的にお勧めします。
「解糖系」とか「乳酸系」といった用語が出てきましたが、簡単に説明すると「解糖系」は酸素を使わずにエネルギーを出し同時に乳酸も「出せる」力のこと。そして「乳酸系」とは「出された乳酸」を再度ミトコンドリアに取り込んでエネルギーを作り出す能力のことです。ちなみにジャック・ダニエルズ氏の「ランニングフォーミュラ」を愛読されている方ならご存知「テンポ走」や「クルーズインターバル」は、この「出された乳酸を再度ミトコンドリアに取り込む力」を強化する練習です。生理学的メカニズムは八田先生の研究で説明されていますが、ここでは説明しきれないので次回以降の記事で説明しますね。ちなみに40秒走と60秒走のスピードが同じにしかならない場合は、スピード能力が不足しているので「40秒走」の改善を優先し、同時に筋トレを取り入れることから始めると良いです。
注意点
レペを行う上での注意点として「jogは必ず継続」すると言うことです。毛細血管を増やしたり心臓の容量を増やしたりといった、酸素を運ぶ能力は、レペだけに偏ると次第に衰えていきます。またjogを実施しないと体内の血液Phが酸性に傾き、自律神経に悪影響を及ぼす意味で非機能的オーバーリーチングやオーバートレニングにつながります。また、単純にレペはアキレス腱やハムストリングスといった組織に対する機械的ストレスが高く、jogで距離を稼ぐ以上に故障へとつながります。私もそんな選手をたくさん見てきましたし、かく言う自分もその一人でした。
そして実際のレースにおいては、レペだけやっていてもパフォーマンスは頭打ちします。単にミトコンドリア呼吸能が改善されても、そもそもミトコンドリアに乳酸を運んで行かなきゃいけません。その「輸送酵素」育成に、ペース走を中心とした専用のトレーニングが別個必要となります。
また最大酸素摂取量を決定づける因子もミトコンドリア呼吸能力オンリーではなく、最大酸素摂取量付近のペースを蓄積した練習で、速筋繊維に毛細血管を増やす必要があり、それもまたインターバルを中心としたトレーニングが必要になります。要は今の自分に何が足りなくてこの時期にやるべき練習は何か?そこを見つめ直した上で「ミトコンドリ呼吸能力開発が最優先される」のであれば検討していいと考えます。
まとめ・ランニングドリルイベント情報❗️大森トレーニングジャーナル(2024年10月3日から10月9日)
乳酸がミトコンドリアを増やすという事実を知った今、レペティショントレーニングの重要性がよく分かりましたね。これを日常のトレーニングに取り入れることで、パフォーマンスの改善はもちろんのこと、脂肪燃焼効率もアップし、理想の体型に近づくことができます。
今後もランニングに役立つ情報をお届けします!また次回の記事で皆さんとお会いできること楽しみにしています。ご閲覧、ありがとうございました!
イベント情報❗️
『アフロ・ワンコイン』ランニングドリル🏃
11月2日(土)朝8時20分から8時50分
たった30分で参加できる!その後そのまま走るもヨシっ‼︎走力問わずどなたでも参加可能です👍
会場:富士総合運動公園 (静岡県)
定員:30名前後
参加費:500円/1人
さらに!参加してくださった方には特典があります🤔❗️
当店アフロランニング&ボディメイク「3回分の500円割引」サービス!☺️割引有効期間は3ヶ月間です!※エアミニを除く
受付:富士総合運動公園陸上競技場入り口前
※8:10から受付開始
申し込み方法
公式LINEに友達追加していただきチャット(予約希望日等を入力する部分)に
①お名前
②性別(男・女)
③目標レースと目標タイム(例:静岡マラソンフルで5時間ギリ・来年6月の中体連1500mで4分08秒ギリetc.)
を記載して送信するだけです!😉※公式LINEでも申し込み方法説明してます👌
「LINEで予約」からも友達追加可能です👉
申し込み〆切:10/30(水)12:30
みんなで一緒に楽しくドリルを学びましょう!それでは、会場でお会いしましょう!😆 詳細動画はこちら↓
以下私「大森」のトレーニング内容(2024年10月3日から10月9日)です!ご参考まで。
2024年10月
3日;千本松雑木林12kmjog
(747mコース16周)+ロード250mレペ(1500ペース内・rest2分)×4
平均ペース(/km);5:08
平均心拍数(/分);147
平均ピッチ(spm):161
ロード250mレペ(1500ペース内・rest2分)×4 ※()内rest平均心拍数
①38.05(153)
②38.55(153)
③38.14(158)
④37.90
コメント;日差しがあると思い雑木林でやったが、案外曇っていた。ただ蒸し暑さはあった。平均心拍も抑えられ始めて少し調子が良くなってきたかもしれない。シンスプリントも少しあるがレース出場に支障はないと思う。昨日の動きの考察「右の骨盤を引き上げる右腹側筋群が弱く、左の足関節背屈に伴う左腸腰筋筋力が弱いためどちらも違った理由で振り出しに問題があると推測できた。」としたが、250mレペを
やってみて追加として「右足趾頭全体で押し切る意識を左の足首背屈に伴う振り出しに同期させる」と右の早期のヒールレイズに伴う「抜け感」が我慢できるように感じた。若干昨日の流しも最後の伸びが無い気もしていた。この辺りもジストニアから抜け出す意識の要因として考慮しながら実際の走りの中で実験する。思うに速い動き特にインターバル強度以上のスピードにならないとこの抜け感は現れない。なのでしばらくはjog後の流し撮影はマストにして丁寧に主観と客観を照らし合わせたい。
4日;12.62kmjog芝+80×4 全力の80%
平均ペース(/km);5:21
平均心拍数(/分);146
平均ピッチ(spm):158
コメント;脚の軽さは7割戻ってきたか。息切れは無く呼吸は楽。引き続きjogでは「右足趾頭全体で押し切る意識を左の足首背屈に伴う振り出しに同期させる」意識で走る。ただ、流しの一本目撮影で感じたが拇指頭を特に意識しないとバネ感がない。拇指頭まで意識するとバネ感もあり、早期のヒールレイズに伴う「抜け感」が我慢できるように感じた。明日はとにかく集団の中ほどを走り500mあたりで先頭集団後方に追い付くイメージで、あとは前にどれだけチャレンジできるかや、ラスト200手前からはどんなにきつくても振り絞って心肺や全身に刺激を与え切れたら秦野に向かった収穫は十分。タイムは追わないでいい!
5日;東海大1500m
タイム:4分27秒89
コメント:今日自体はそれほど倦怠感はなかった。ただ起き掛けのハリ感はある。タイムは今シーズンで一番遅い。冷静に見つめ直すと、まずオーバートレーニングによって閾値以上の練習の質が下がっていると最初思っていたが、単純に乳酸干渉力も低下してないだろうか?1600や2000は閾値前後のメニューなんでミトコンドリアのエネルギー生成速度は改善できない。600のレペ頻度を上げて距離走は月1。週一回オルバを刺激で次回の東海大までちょっと変化をつけてみよう。しかし中日のjogはあえてゆっくりでも時間を伸ばす。
6日;300×5+1600×1ウェルピア
(1周856.75mコース) 内容:300は1500ペースから-2秒→1612は5000mペース+5から+10秒/km
rest300は2分30秒
タイム
300m()内は心拍数/分
①51.03(138)
②47.98(146)
③47.84(149)
④47.45(151)
⑤47.51
1600m※1周と743.25mごと()内心拍数/分
2:41.80(173)2:28.30(187)
コメント;昨日の1500mレースで乳酸放出力の弱さを痛感し、そのため速筋繊維のミトコンドリアも減少してきているものと考え今日は300のレペを実行。刺激を利用して1600のインターバルにしたかったが1本目の後半から息切れはないがペースがガタガタ落ち込むので意味ないと感じ辞めた。速筋繊維のミトコンドリアがない状態でインターバルをやろうとしてもそもそも追い込めない。ただでさえジストニアでフォームが安定していないところにある程度長い時間OLBAを超えたペース帯を維持させるには段階的にまだ早いと感じることができた。400mのレペでしばらくは動き自体の不安と乳酸放出力を高め、その放出した乳酸によってPGC1-αを刺激し速筋繊維のミトコンドリア呼吸能()
7日;14.01kmjog芝
平均ペース(/km);5:50
平均心拍数(/分);136
平均ピッチ(spm):158
コメント;前日の雨から晴れであったのでかなり蒸し暑かった。10月も半ばになろうとしているが今年は異常な暑さだと感じる。今後はこの暑さがオーソドックスになると考えて練習のスケジュールも見直していきたい。心拍は比較的抑えられるようになってきたか。
8日;レペ400×5
(800ペースから1500ペース・rest6分)
使用シューズ;ヴェイパーフライ
タイム※()内はrest平均心拍数/分
①64.34(121)
②63.87(129)
③63.66(130)
④64.77(133)
⑤63.82
※300程度の距離ではわからない後半のキツさに抗う練習。たった100mの延長でもそこでペースを落とさないように意識することに効果があると思う。具体的には乳酸発現を介した「ミトコンドリア」の新生。ここで生み出す速筋繊維内のミトコンドリアが欠けていてインターバルのクオリティを下げていたように思う。5本という本数も最後落ち始めそうなところでオールアウトするのに絶妙だった。こういった練習は右の膝窩筋断裂以降避けていたが、そのせいで最後の一押しキックが欠落していた。ハリは出ているが弱っていた証拠でもあるから、意識してアキレス腱との筋腱移行部を強化していく。具体的にはこう言ったスピードの高い練習ではしっかり後方にキックすること。少し内旋気味に拇指頭(親指の先端)で抜けていくこと。またjogの中でも弾む意識を持ち、必ず流しでキックの確認を行うこと。
9日;16.08kmjogロード
平均ペース(/km);5:41
平均心拍数(/分);136
平均ピッチ(spm):157
コメント;雨の中走ったこともありかなり涼しかった。ヒラメ筋に痛みが出ているがこれはあえて弾む意識で走っているため伸張反射が使えるようになっている証拠と考えているためそこまで気にしていない。前半前のめり気味になっていた動きを骨盤を立てて大転子を押し出すように変えるとスムーズに走れた。