閾値走は、最近では市民ランナーの間でも認知されているトレーニング方法です。学生の場合は「ペース走やペーらん」と呼ぶこともあります。インターバル練習よりも遅く、距離走よりも速いペースで、比較的長めに走る練習です。私は数ある練習内容の中で、最も中・長距離走者の能力を向上させる「ベース」になる練習と考えています。そのペースは一流選手であればハーフマラソンくらいのペースに該当します。この閾値走に対する効果や方法について私の考えを結論から述べますと
①閾値走は中・長距離走者の能力(OLBA)を向上させる「ベース」になる練習である
②閾値走は分割して行っても良い※1回の練習で合計20〜30分程度
③閾値走の実施頻度は多めに取る※一流選手であれば週4〜5回・一日2回こなす選手もいる
といったところです。これから詳しくお話ししていきますね。
<閾値走の効果>
まず、この閾値走にはどのような効果があるのでしょうか?これを説明する上で「遅筋繊維(ちきんせんい;持久力にすぐれた筋)や遅筋の特性を持つ速筋繊維(そっきんせんい;瞬発力にすぐれた筋)」の中にある「ミトコンドリア」という細胞を知ることが重要です。ミトコンドリアに関してはネット上で色々説明していますので、詳細はそちらを参考にしていただき、ここでは簡単に「エネルギー生産工場」と考えてください。閾値走を行うことで、このミトコンドリア自体の数や大きさ、また乳酸を取り込む「MCT1」という酵素を発達させます。このミトコンドリアと酵素の発達によって、速筋繊維で作られた乳酸が、遅筋繊維のミトコンドリアで受け取られ、それをエネルギーとして再利用しやすくさせます。この一連の流れを「乳酸シャトル」と呼ぶ人もいます。ちなみに距離走で毛細血管を発達させることでも、乳酸シャトルを改善させます。
乳酸は一定のペースを超えると、急激に上昇するポイントが存在します。そのポイントを「OLBA(オルバ)」と呼びます。閾値走のポイントは、このOLBAのペース前後で合計20分から30分走ることが重要だと言われています。前述しましたが、速い人の場合大体ハーフマラソンのペースになるようです。自分に合ったOLBAのペースを知るためには、ジャック・ダニエルズ氏の計算アプリを使って調べると良いでしょう。VDOTという指標を使うことで簡単に自分の閾値ペースを知ることができます。以下にVDOT計算のできる無料アプリ、リンク先貼っておきますね↓
APP↓
https://apps.apple.com/jp/app/vdot-running-calculator/id973571014
Googleストア↓
<閾値走の方法>
具体的なトレーニング方法としては、例えば20分間続けて走るという方法があります。しかし、このペースを続けて20分というと毎回レース並みに調整する必要があり、メンタル面やコンディション面でのストレスが高くなるかもしれません。またいちいち調整してしまうと、他のポイント練習を外す必要も出てきます。レース前に精神面を含めて「我慢する力」を強化するためには良い方法ですが、練習段階では効果を最大限に発揮するために、最低限の労力で行うことが大事です。そのため、分割したり、ビルドアップ(徐々にペースを上げていく)で時間を積算する方法が有効です。私もこのやり方で成果を出しました。ちなみに分割した閾値走のことをジャック・ダニエルズ氏は「クルーズインターバル」と読んでいます。ジャック・ダニエルズ氏の本については、以下にリンク先貼っておきますね↓
東京オリンピックの1500m金メダリスト、ノルウェーのヤコブ・インゲブリクトセン選手は、閾値走のレベルアップを練習の主軸としています。彼は午前中に2000mを5本走った後、午後に1000mを10本走るなど、非常に多くの量をこなしています。週に5回くらいこの練習を取り入れる時期もあるようです。彼はスピード練習だけでなく、閾値走も重要視していることがわかります。ちなみに余談ですが、ヤコブ選手は時には20〜25kmのジョグも行っています。やはり中距離の選手であっても、距離走は重要なのです。
私自身も、ビルドアップの4〜6000m×1〜2本や、2000m×4〜5本を閾値ペースで走るなどの練習(クルーズインターバル)を行っています。もし5000m15分を切ることが目標なら、おおよそ3分15秒/kmのペースを目指すことになります。
ただ私は1日の中で2回、閾値練習をしたことがありません。ヤコブ選手がやるように「週5回」なら、日を分けてそのくらいの頻度をやれば良いと思うからです。とはいえ私自身、週5回までやることはほとんどありませんが、OLBAを意識したトレーニングは多い時で週4回くらい入れています。要はOLBA付近の刺激をどれだけ頻繁に、身体にかけられるかだと思うのです。閾値走は「一日に2回入れられる人は入れてみると良く、練習の頻度として多く取るべき」というのが私の結論です。シーズン中でも、1500mレースのラスト500mが苦しい場合や、5000mレースの3000mを余裕を持って通過できない場合には、閾値走のトータル頻度や量を見直しています。
また私は最近、夏場における練習の主軸を、あえて閾値走にしています。多くの場合、夏場は距離走をこなすイメージですが、学生や実業団チームのように、涼しい場所で合宿する期間を取りにくいため、あえて休憩を長めにとりながら、クルーズインターバルで閾値のベースを作っています。距離走メインの練習は、夏場キープしたOLBAをベースに、少し涼しくなった頃からスタートしています。夏場の閾値走は、なるべく日陰になるコースで、休憩を長めにとりながら行っているため、距離走よりもかえって消化しやすいと思います。とはいえここ数年の暑さは尋常ではないので「精神力」が求められます。僕もこの時期はイヤイヤ病で、ほんとに毎日練習に踏み出すまで、自分と戦ってます。
まとめると
①閾値走は中・長距離走者の能力(OLBA)を向上させる「ベース」になる練習である
②閾値走は分割して行っても良い※1回の練習で合計20〜30分程度
③閾値走の実施頻度は多めに取る※一流選手であれば週4〜5回・一日2回こなす選手もいる
といったところでしょうか?みなさんにとっての閾値走の位置付けどのように考えますか?ここまで読んでいただきありがとうございました!またよろしくお願いします。