
こんにちは、理学療法士ランナーの大森です!今回はランニングパフォーマンスを向上させるための重要な練習「閾値走とビルドアップ走」についてお話しします。解説動画はこちら↓
特に、「乳酸(にゅうさん)」や「閾値(いきち)」について詳しく解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。

閾値 (OBLA) や LT とは何か?
まず初めに、閾値(OBLA:オブラ Onset of Blood Lactate Accumulation)と乳酸作業閾値(LT:Lactate Threshold)について説明します。下の図は運動強度である速度と血中乳酸濃度を指し示すグラフです。乳酸曲線とも呼ばれ、運動強度と乳酸濃度の関係を示したグラフです。右に行くほど速度が上がり、上に行くほど血中乳酸濃度が高くなることを示しています。血中乳酸濃度とは、血液中に含まれる乳酸の量を指します。乳酸は、体内でエネルギーを作るときに生じる副産物の一つで、特に酸素が十分に供給されない状態で筋肉が活動するときに多く生成されます。例えば、激しい運動を行うと、体は酸素供給が追いつかなくなるため、乳酸が蓄積されやすくなります。

LT(乳酸作業閾値)
LTは、運動強度が増すにつれて乳酸が蓄積し始めるポイントです。この閾値を超えると、疲労が急速に進行します。一般的には血中乳酸濃度が 2mmol/L前後とされています。
閾値・OBLA(Onset of Blood Lactate Accumulation)
閾値・OBLAは、この図で指し示す様に、血中乳酸濃度が急激に上昇し始めるポイントのことです。そして一般的に、血中乳酸濃度が4mmol/Lに達した時とされています。ジャックダニエルズさんのランニングフォーエバでいうところの閾値(T)ペースとは、一般的にこのペースのことを指します。
これらの2つの閾値ポイントを理解することは、効果的なトレーニングプランを立てる上で非常に重要です。
乳酸曲線と3000mを8分58秒以内で走るための閾値ペース
次に、乳酸曲線と具体的な目標タイムについてお話しします。例えば、中学生男子の全国大会、いわゆる全中の参加標準記録は2025年2月時点で3000m8分58秒です。この記録で走るには、下の図で示す様に閾値ペースが3分22秒/kmである必要があります。 またLT ペースが4分04秒/kmです。

このように目標タイムを達成するためには、適切な閾値ペースを維持し、これら2つのペースで乳酸が上昇ポイントの特性どうり処理されることがカギとなります。ちなみに市民ランナーさんで2時間50分ぎり、いわゆるサブエガを達成するには閾値ペースが3分49秒/km、LT ペースが4分35秒/kmです。同様に全国高校駅伝やインターハイで女子選手が上位入賞を狙う走力3000m9分30秒を達成するには、閾値ペースが3分33秒/km、LT ペースが4分17秒/kmあたりになることが目安となります。ちなみに各自の目標タイムに沿った詳細なLTや閾値は以下のブログ記事を参考にしてください!↓ジャックダニエルズ氏のVDOTを基準としたアプリです。ちなみに私はLTをイージーペースの上限と考えています。

乳酸シャトルとMCT(モノカルボン酸トランスポーター)とは?
ここで、閾値やLTを決定づける「乳酸シャトル」という運動生理学的メカニズムを紹介します。 その前に前提知識として、速筋繊維と遅筋繊維、心筋、ミトコンドリアについて簡単に説明しておきます。
速筋繊維(そっきんせんい)

速筋繊維は、短時間で強い力を発揮する筋肉の繊維です。主に無酸素運動(例:短距離走やウエイトリフティング)で活躍します。これらの繊維は、一瞬のパワーを提供するためにグリコーゲンをエネルギー源として使用し、疲労しやすい特徴があります。
遅筋繊維(ちきんせんい)

遅筋繊維は、持久力に優れた筋肉の繊維で、長時間にわたる活動(例:マラソンや長距離水泳)で活躍します。 酸素を利用してエネルギーを生産するため、疲労しにくく、持続的な運動に適しています。ミトコンドリアが多く含まれているのが特徴です。
心筋

心筋は心臓を構成する筋肉です。心筋は自律的に収縮する特徴を持ち、心臓を絶え間なく動かし続けます。心筋は、速筋と遅筋の両方の特性を持ち、持久力と強力な収縮力のバランスが取れています。
ミトコンドリア

ミトコンドリアは細胞内の小器官で、エネルギーの生産において中心的な役割を果たします。特に有酸素運動で重要なATP(アデノシン三リン酸)を生成する場所です。遅筋繊維にはミトコンドリアが多く存在し、持久力を支えるエネルギー供給を行います。
これらの要素は、運動や日常生活における筋肉の機能に大きく関与しています。
乳酸シャトルとMCT

この図は乳酸シャトルと言って速筋繊維でできた乳酸を遅筋繊維や心筋に取り込んで再びATPを再合成する様子を表しています。
まず速筋繊維で糖やグリコーゲンからエネルギーとしてのATP、クレアチンが生み出されます。これらが分解される過程で乳酸とリン酸ができます。そしてここで重要なことは速筋繊維で生成された乳酸は、MCT4・モノカルボン酸トランスポーター4という酵素を通じて血管に放出されるということです。
その乳酸は、遅筋繊維や心筋のMCT1を通じて再び筋細胞に取り込まれます。筋細胞内部のミトコンドリアで、乳酸は再びATPとして合成され、エネルギーとして再利用されます。この一連の流れが高強度の運動でもなされる様になることが閾値が上がることにつながります。このように、運動中に効率的にエネルギーを供給する仕組みが「乳酸シャトル」です。
最近、「乳酸は疲労物質ではない」という話をよく耳にします。では、何が疲労の原因なのでしょうか。まず、速筋繊維でATPが分解されると、乳酸とリン酸が生成されます。しかし、実際に疲労を引き起こすのは、このリン酸が筋肉の収縮に関与するカルシウムと結びつき、筋収縮能力を低下させることです。そのため、乳酸自体は疲労の原因ではありません。
また、筋疲労の原因として、クレアチンの減少も考えられています。例えば、100m走では、後半でトップスピードを維持できず、スピードが少し落ちることがあります。これは、クレアチンが運動初期に爆発的なエネルギーを供給する能力が低下するために起こる現象です。
さらに、レペティションのような高強度の運動中に乳酸が溜まっても、休憩を取ることで再び同じ速度で始めることができます。これは、休憩中にリン酸がミトコンドリアでADPと結びついて再びATPを作り出すことができることに加え、クレアチンが回復するからです。
乳酸シャトルの効率と閾値を向上させるためのトレーニング
乳酸シャトルの効率を向上させるためのトレーニング方法について説明します。まず、閾値(OBLA)ペースで走ることが重要です。これは、血中乳酸濃度が4mmol/Lに達するペースで、主に速筋繊維から乳酸を血中に出すためのMCT4酵素を強化します。一方、LTペース以内で走ることは、遅筋繊維で乳酸を取り込むためのMCT1酵素を養うのに役立ちます。これらのトレーニングを組み合わせることで、乳酸の処理能力が向上し、運動パフォーマンスが向上します。
ただし、閾値以上のペースを維持するのは難しいため、現状の体力に応じた練習が重要です。私は、成功体験を重ねることが大切だと考えています。そのため、徐々に狙った閾値に近づけるビルドアップや、目標閾値ペースを分割するクルーズインターバルをお勧めします。例えば、3000m〜4000mのビルドアップを最終的に閾値を超えるペースにしていく練習や、閾値ペースで2000m程度を3〜5本繰り返すことが効果的です。これらの練習は、適度な負荷を感じながらも成功体験を積みやすいです。
さらに、LT付近を上限に設定したジョグも大切です。心拍数的には160拍/分程度が目安で、中学生なら6〜8km、マラソンを目指す方であれば10〜20kmの距離を普段のジョグでLT付近まで上げるトレーニングも有効です。

箱根駅伝の強豪校も地道にこう言ったLT付近の練習を繰り返している印象です。以上の練習を繰り返すことで「乳酸曲線のカーブ」が右側へシフトし、閾値ペースの向上につながります。自分の感覚としてはOBLA強度の練習に対する余裕度を築く意味でLTの頻度と量が必要になると考えます。一流選手が「jogが大事」というのも、おそらくこのあたりの意味を踏まえているものと考えます。今回は触れませんがVo2MAXを向上させるインターバルをすることでも、OBLA強度練習に余裕が生まれます。インターバルトレーニングに関しては以下の記事もご確認ください↓

終わりに・閾値走イベントや小中学生指導のご案内
以上、今回は閾値走とビルドアップ、そして乳酸作業閾値についてお話しました。理解が深まったでしょうか?私は知識は練習のモチベーションと考えています。闇雲に与えられた練習や雑誌等に記載されている練習、また人がやってる練習をそのまま真似てこなすのではなく、今日お話しした知識を自分なりにアレンジして、ぜひ閾値を意識したペース走やビルドアップで成功体験を増やしてください!
最後に皆さんにもぜひ参加して欲しい練習会イベントのお知らせです。
2025年2月24日(祝日)、裾野市総合運動公園陸上競技場で「キャンプ・アフロ『ペース走』」というランニングイベントを開催します。このイベントは「アフロ ランニング & ボディメイク」が主催し、理学療法士でありランナーでもある私、大森がコーチングさせていただく合同練習会です。
イベントでは、私が理学療法士としての知識を活かしたドリルやコアエクササイズを取り入れ、中・長距離やマラソンの練習を行います。ただ単に走るだけでなく、ランナーとしてのスキルもアップできるチャンスです!さらに、他のランナーたちと交流し、仲間との絆を深めることもできますよ。
さらに、「キャンプアフロJr.」と題して小中学生を主な対象に、私が中・長距離走のコーチングを個々のレベルに合わせて行います。この練習会では、理学療法士だからこそ伝えられる「運動生理学」の知識を基にした練習、また「運動学」などの知識を基にしたドリルやコアエクササイズ、ジャンプトレーニングを取り入れ指導いたします。現役ランナーとしての視点から、「頑張りどころ」の考え方もお伝えします。私自身、40歳を過ぎてからも独学で1500mを4分00秒台、5000mを14分台で走った経験を持っているため、指導者のいない高校生の参加も歓迎致します。主に水曜日の夕方、三島市や沼津市まで通える方が対象となります!どちらもまだ始めたばかりのイベントですが、今後皆さんの希望を汲みながら、より良い練習会として育てていきたいと思っていますので、たくさんの方に参加していただけると嬉しいです。
興味がある方は、ぜひ以下のリンク先ブログをチェックしてみてください!

それでは、また次回の記事で皆さんとお会いできること楽しみにしています。今日もご閲覧、ありがとうございました!