「走り込み」の重要性、スピード時代と言われる今日に至って、みなさん「走り込むことの重要性」をどのように捉えていますか?私の考えを結論から先に述べますと
①走り込みは心臓の大きさと乳酸シャトル、またグリコーゲン貯蔵能力を改善させる
②強度の高い練習のタイムが頭打ち、もしくは落ちてきていると感じたら、全身毛細血管の覚醒と心容量拡張、エネルギーの取り込みを狙って、あえて長めのロング走をEペースで取り入れる
③強度の高い負荷に耐える脚で怪我を防ぐため、走りこむことで靭帯を強固にする
といったところです。先日YouTubeで走り込みの動画を投稿したのでそちらのリンク先も載せておきますね↓
それでは詳しく内容を説明しますね。
<走り込みの効果>
まず、毛細血管といって、使用し続けている筋肉はそれ自体に血管が発達していくと言われています。また長時間運動することによって、心臓自体の大きさも大きくなるようです。この辺りは「アーサー・リディアードさん」といった方が昔出された本にも書いています。以下にリンク先貼っておきますね↓
この本の中で、2時間以上の呼吸が乱れないギリギリの「速いペース」で走ることで、効率よく毛細血管が養えると述べられています。旧西ドイツの選手の脚から、筋肉を採取して、効果を検証したらしいです。
僕の学生時代は、野口みずきさんが「走った距離は裏切らない」といった名言を残していた時期で、走り込みの重要性が高い傾向にありました。また小出義雄さんという監督が有名で、選手にめちゃくちゃ走り込みを課すことが、流行った時代でもありました。世界選手権やオリンピックマラソンのメダリスト「有森裕子さん、鈴木博美さん、高橋尚子さん」などといった選手を育てられたことでも有名です。小出監督は、走りこませることを悪とされる風潮の中「練習にルールは無い」「100年先のトレーニングをしている」という信念の中、とにかく選手を走らせました。陸連からの批判もある中あえて自分の信念を通す。かっこいいですね。
最近得た情報ではノルウェーのヤコブ・インゲブリクトセン選手は12歳ですでに最大週180km走っていたそうです。大迫傑選手が「スピード強化のために」と言って所属していたオレゴンプロジェクトでも、主力選手は週190km走らせる時期もあったそうです。5000・10000mの(2024年5月時点で)世界記録保持者であるジョシア・キプケディ選手も、週200km以上走っているとか。スピード時代とはいえ、走り込みの重要性、お分かりいただけると思います。大学駅伝の強豪校も泥臭く(?)1ヶ月1000km前後に走りこむことが、今では普通になってますしね。
走りこみの中でウェイトの大半を占める「距離走」。。。僕も感覚として距離走で心臓が強くなる気がします。僕の場合30km走った直後の心拍数は高くても、翌日の安静時心拍数は通常より低くなります。これは、心臓が一回の拍動で押し出す血液の総量を、増加させたために起こる現象です。
また強度の高い練習ペースでも、心臓から送り出せる血液(酸素量)が多ければ「肺が忙しく働く必要がない」ので、呼吸が楽になります。僕も距離をこなす練習期間を経た後、シーズン初めのスピード練習は呼吸が楽なのに、シーズン中盤に入って呼吸がキツくなっていました。これも距離走をおろそかにしたことで、心臓の大きさが「小さくなった」のかも知れません。また、ちょっとマニアックな話になりすぎるので、詳細は割愛しますが、遅筋繊維(ちきんせんい;持久力のある筋)の毛細血管が発達することで、速筋繊維(そっきんせんい;瞬発力のある筋)で発生した乳酸を、その毛細血管で取り込み、遅筋繊維でエネルギーにしやすくなるとも言われています。このことを「乳酸シャトル」なんて言うようです。
そのためシーズン中、頻度は少し減ってでも、距離走は定期的に取り組むべきと思っています。特に高い強度の練習タイムが頭打ちしたときに、あえてジャック・ダニエルズ氏のいうところの「Eペース」で長く走り「心臓を大きく」また「乳酸シャトルを活発」にさせ、練習全体のバランスを取るべきだと感じます。
自分に合ったEペースを知るためには、ジャック・ダニエルズ氏の計算アプリを使って調べると良いでしょう。VDOTという指標を使うことで簡単に自分の閾値ペースを知ることができます。以下にVDOT計算のできる無料アプリ、リンク先貼っておきますね↓
APP↓
https://apps.apple.com/jp/app/vdot-running-calculator/id973571014
Googleストア↓
ジャックダニエルズさんの本も、一応リンク貼っておきますね↓
また、これは特にハーフマラソン以上の距離を走る選手に当てはまることではありますが、ある程度長く距離走をすることでレース後半の落ち込みを防ぐための「グリコーゲン貯蔵能力」が養えます。これはエネルギー源である糖を節約しながら走る能力とも言い換えることができます。筋肉のグリコーゲンを空にするくらい走ることで糖を取り込むタンパク質酵素が発達するといったメカニズムが関与すると言われています。良く言われるグリコーゲンローディングも同様の理論ですが、普段からエネルギーが不足するまで距離走を行っているとより糖を取り込む酵素が発達するようです。
<距離走;取り組み方の実際>
ここまで読んでいただき、距離走の効果はわかったけど、「シーズン中に長い距離走を入れて、脚重くなるんじゃない?」と思われたかも知れません。僕もかつてはその考えで、シーズン中はほぼ距離走を抜いてました。
しかしここで僕自身の体験談をします。レース期にインターバルやペース走がこなせなくなってきた時期があって、半ば「やけくそ(?)」で5000mの試合2日前に30km走を入れました。不安はありましたが今までの自己ベストを更新することができました。脚もそこまで重いと感じませんでした。ただ、ここで30km入れられると感じたのは、それまで(走り込み期)に30kmを走っていたからです。なんとなく大丈夫そうといった直感がありました。
最近の高校生は30㎞走ることは無いと思います。だから頭打ちした時のレース直前の調整手段として、距離走にはならないかもしれません。ただペース走やショートインターバルで流れを作ってレースといった方法がハマればベストですが、このような調整は、速筋繊維に疲れが溜まってしまう気がしています。一番良くないのは、調子が上向かない時に強度にこだわった練習をし、そこでのタイムがイマイチなことで、さらに自信を無くすことです。
一方、距離走で調整することで、速筋繊維の疲労を回復させながら心臓と脚が活性化するように思うのです。後述しますが根本的な中・長距離走者の能力として乳酸作業閾値前後の練習が大事です。しかし心臓そのものの容量を大きくし、乳酸シャトルを活性化させる効果は距離走の方が上かなって思います。試合の2日前に30km走を入れて成果が出たのも、この効果を体内で刺激できたからだと考えています。またこれは憶測ですが、前述したグリコーゲン貯蔵能力の話も関わっていると考えます。ハーフマラソン以上と言いましたが、私個人の感覚としては、5000mくらいの糖をエネルギーの主体とする距離でも応用が効いたと考えます。つまり30km走のおかげで通常以上に糖を取り込むことができ、いわばエネルギー満タンの状態を作り出せたと言うことです。ただ、たまたま調子が悪かったからこの方法を取っただけで、調子が良ければ短い距離でシャープな動きを入れていった方が記録は出ると思いますし、それがセオリーでしょう。
距離走を行う上で注意して欲しいこととして「このくらい走り込めば、このくらいのタイムが出る」という目安は存在しないと言うことです。というか距離走は「血管を増やす」「心臓を大きくする」といった目的の、あくまで練習の一部であって「唯一では無い」と考えています。ここを勘違いして、じゃあ距離を踏めば踏むほど強くなる!と思わないでください。シーズンオフは積極的に、シーズン中はポイントのタイムが伸びなくなったら入れる。もしくはポイントがやりたくないな、と感じ始めたら入れるといったところでしょうか。。僕の場合シーズン中、敢えてダニエルズさんのEペースより「かなりゆっくりとしたペースで疲労をとる日」と、あえて「ロング走でEペースぎりぎりを攻める日」を、他のポイント練習も加味しながら入れています。
ここまで「距離走」を推すと、「走らせすぎは選手に怪我をさせる」的なポリシーの指導者さんから、批判を頂戴するかも知れません。しかし走りこむと怪我をするという「因果関係が明確で科学的根拠のある研究」は今まであったでしょうか?
ここで是非知ってもらいたい内容として、2023年のNSCA大阪フォーラムにおける話です。フォーラムの中で「週70km以上走る人の腱断面積は太く、走り込むほど故障に耐えられる脚になる」という発表がありました。ここで言えることは、走り込みで怪我をするのでは無く、むしろ徐々に走りこむ距離を延ばすことで、怪我をしない頑丈な身体になるということです。発想を逆転すべきでないでしょうか?才能のある子を大事にしすぎて怪我をしやすくさせ、「そんなに走らせてないんだけどな」と悩む指導者さんに、是非知って欲しい内容です。
ここで冒頭の話が、個人的に核心ついてると思うので再度言います。「ヤコブは12歳で週180km(1日平均約26km)」ですよ!ちなみに安全に適切に増やすなら「週15kmまで」といったことを「ダニエルズさん」は言っています。個人的には「動きを大きくしなやか」にするため、クロスカントリーコースで距離を踏んでもらいたいです。
要点だけまとめると
①走り込みは心臓の大きさと乳酸シャトル、またグリコーゲン貯蔵能力を改善させる
②強度の高い練習のタイムが頭打ち、もしくは落ちてきていると感じたら、全身毛細血管の覚醒と心容量拡張、エネルギーの取り込みを狙って、あえて長めのロング走をEペースで取り入れる
③強度の高い負荷に耐える脚で怪我を防ぐため、走りこむことで靭帯を強固にする
といったところでしょうか?みなさんにとっての距離走の位置付けどのように考えますか?
最後に私の2024年8月1日から7日のトレーニング内容を載せておきますね↓
1日:AFRO内で8kmトレッドミル→閾値ペースフォーム撮影3方向 使用シューズ:zoomフライ
平均ペース(/km);12km/h
平均心拍数(/分);139
平均ピッチ(spm):168
坂ダッシュ80m×3
コメント:坂ダッシュ後の方が伸展出ているか。屋内日陰で風通し良ければ扇風機だけで回復jogをしやすいかも。
2日: 1612m×3
タイム:656mごと()は内心拍数
①2:09.66(156)2:09.18(176)58.39(180)
rest5:15jog(136)
②2:06.49(163)2:06.06(185)57.08(188)*190spm
rest5:02jog(146)
③2:03.56(169)2:03.50(191)52.40(194)*190spm
2:04.10(171)2:02.75(187)53.73(189)*159spm
コメント: 前半の動きは硬かった。最後は動くようになった。努力感は同じ気はする。暑さが例年以上にきつく感じるが若干慣れ始めたか。まだ二ヶ月はこの暑さに耐えなきゃいけない。水のシャワーは良いと感じる。
3日: 2000×3クルーズインターバル
()内心拍数記載
500mごとタイム
①99.02(149)98.24(175)98.42(176)97.52(181)
rest7:59(126)
②97.97(156)98.46(177)98.17(181)97.63(182)
rest7:57(127)
③97.26(159)97.64(180)96.76(184)97.53(186)
rest8:03(134)
④96.14(165)96.38(183)95.73(186)94.93(188)
コメント:左脚の振り戻しと乗り込み意識・弾む感覚が出てきた。
4日:地元富士登山駅伝応援jog
①下り坂メイン4.63km 5:22/km・120拍/分
②1.70km 6:02/km・125拍/分
③上り坂メイン3.65km 6:04/km・141拍/分
5日: 6000テンポ(656mコース9周)+300×3(1500-800ペース)
656mごとタイムと()内心拍数
①6000テンポ
2:12.34(154)2:12.68(178)2:13.46(182)2:13.13(184)2:12.39(185)2:15.21(188)2:10.69(191)2:10.57(193)2:07.88(194)
②300m×3
46.56
(3:10.(149))
46.49
(3:39.(147))
45.83
6日: 8kmjog河川敷+途中駐車場80m坂ダッシュ×5
使用シューズ:アディゼロ匠セン 旧薄底
平均ペース(/km);5:14
平均心拍数(/分);152
平均ピッチ(spm):162
コメント;暑さはあるが、回復意識にjog。でもきつかった。ダッシュで神経系を賦活させる。一本一本暑さで呼吸が荒い。左の乗り込みと同期して右膝をサッと降り出すと右の抜け感が減った。
7日: 1968m×3+300×3
656mごとタイムと()内心拍数
①2:10.23(157)2:09.62(177)2:09.34(182)
rest5:13(133)
②2:07.14(163)2:09.53(185)2:08.47(187)
rest6:02(136)
③2:05.51(174)2:08.11(187)2:06.69(190)
rest10:05(130)
300×3※()内rest時間と心拍数
46.68(4:05 139)
46.69(4:02 142)
45.88(3:53 140)
コメント:左脚の振り戻しと乗り込み意識・弾む感覚が出てきた。
ここまで読んでいただきありがとうございました!またよろしくお願いします。