こんにちは、理学療法士ランナーの大森です。今回は「細い膝下」を手に入れるための秘訣をお伝えします。そして、その秘訣を体現した「長距離の皇帝」とも称される男、ハイレ・ゲブレシラシエについても紹介します。
はじめに;ハイレ・ゲブレシラシエとは?
ハイレ選手は、エチオピア出身の長距離ランナーで、5000m・10000m・ハーフマラソン・マラソンと多数の世界記録を保持していた伝説的な選手です。10000m走において1993年から1999年まで世界陸上4連覇を果たし、1996年アトランタオリンピック・2000年シドニーオリンピックでも2連覇。
2008年9月にはベルリンマラソンに出場、自らが保持するマラソン世界記録を新たに塗り替える2時間3分59秒のタイムで優勝しました。厚底カーボンシューズの恩恵を受けない記録であるため、今なら2時間1分台に相当するのではないでしょうか?身長164cmと小柄ながら圧倒的な強さで【皇帝】と呼ばれ、今でもエチオピアの国民的英雄です。
彼の走りはまさに芸術であり、その動きの美しさと効率性は多くのランナーにとってお手本です。私も実のところハイレ選手の走り方を目指しています。日本人選手で言うと大迫傑選手が近い動きだと思います。以下の動画は同郷エチオピアのケネニサ・ベケレ選手と並走している様子ですが、どちらも芸術的な走りでワン・ツーフィニッシュ。ハイレ選手は敗れましたが、速い選手の「最終型」はこうなんだと思わせるくらい、動きがシンクロしています。イメージ作りに良かったら(二人のシンクロした場面は再生2分後から)↓
太ももスイング速度とパフォーマンス
ハイレ選手のパフォーマンスを支えた要因の一つが、彼の「太ももスイング速度」です。太ももを高速で振り出すことは、次のステップへの迅速な移行を可能にし、より少ないエネルギーで長距離を走る助けになります。
太ももスイング速度がパフォーマンスに与える影響
太ももスイング速度は腿の振り上げ時の最大速度を測定します。接地していない側の脚の動きの期間「遊脚期」における腿の振り出しは、ピッチとストライドを上げる、すなわちランニングのスピードを上げるのに重要なファクターです。安定して高い速度を維持することが効率的な走りに繋がります。腿の振り出しに適切な筋肉を使えているかどうかのスコアとして以前投稿した膝の折り畳み角度がありますが、腸腰筋を使うことで下腿を股関節に近づけると、より大きな太ももスイング速度を生み出すこともできます。例えるならばバットを短く持つとスイングを早くすることができるのと同じことです。
先日動画投稿した「二重振り子」も同じ原理です。13秒のショート動画なんで下肢を「短く」して振り出し速度が速くなるイメージ作りにどうぞ↓
重要なのは腿の振り出しの平均速度ではなく最大速度を計測していることです。最大速度は平均速度に比べて個人差が現れやすいと考えられています。疲労により数値の変化が現れやすいスコアです。当店アフロランニング&ボディメイクでは「遊脚脚が地面と垂直になった地点から膝が一番高く上がった地点」の股関節可動域速度を計測しています。値が大きいほど速いと言えます。
②代表選手の速度
ハイレ・ゲブレシラシエの場合;400deg/s (ディグリー) ※膝が一番高く上がった地点60°・そこまでの速度0.15秒
大迫傑選手の場合;358.8deg/s ※膝が一番高く上がった地点60°・そこまでの速度0.17秒
鈴木健吾選手の場合;346.7deg/s ※膝が一番高く上がった地点52°・そこまでの速度0.15秒
エリウド・キプチョゲ選手の場合;337deg/s※膝が一番高く上がった地点54°・そこまでの速度0.16秒
前田和摩選手(東農大)の場合;333.3deg/s ※膝が一番高く上がった地60°・そこまでの速度0.18秒
私(大森)の場合;266.7deg/s ※膝が一番高く上がった地点48°そこまでの速度0.18秒
こうしてみると私のような市民ランナーは「振り出しスピードとその角度」に明確な課題がありますね。この辺りが自分のような5000m「14分台ランナー」と「13分台はたまた12分台選手」との差なんでしょう。アフロランニング&ボディメイクはこの部分の評価も行ってます。また意外に思われるかもしれませんがキプチョゲ選手はそこまで膝が高く挙がってないようですね。この辺り、どこでカバーしているのか。分析動画やブログも作って行きますのでしばしお待ちください。
ハイレ・ゲブレシラシエ・細い膝下の秘密
ハイレ選手の細い膝下は、重量を減少させるだけでなく、振り出しの際の空気抵抗を最小限に抑えます。これにより、より速く、より軽やかに走ることができます。またオリンピックや世界選手権で短距離選手、いわゆるスプリンターの脚を見てもらうとわかると思うのですが、彼らは皆、膝下がキュッと引き締まって細いです。ハイレ選手もスプリンターと動きは近いものがあり、そのため同じような脚になってくるのです。スプリンターの膝下が細い理由はいくつかの要因が考えられます。これらの要因は、彼らのトレーニング方法や体の適応によるものですが、一体どのように獲得していったのでしょう?
筋肉の特性
スプリンターは主に速筋(白筋)を使って爆発的な力を生み出します。速筋は短時間で大きな力を発揮するため、筋肉の断面積はそれほど大きくならないことがあります。皆さんも長い距離を走りこむよりスピードを出す練習をした後の方が脚が締まることないですか?短い時間で大きな出力を出すことは以前投稿した動画内のRFDで説明しましたので、まだ見ていない方は是非そちらもご覧ください↓スプリンターの動きに近いハイレは、そのため膝下の筋肉が細くなるのです。
②特異的なトレーニング
スプリンターは、主に腸腰筋やハムストリングスなどの大きな筋肉群を強化するトレーニングを行います。これに対し、ふくらはぎや膝下の筋肉はサポート的な役割を果たすため、過度に鍛えることは少なくそのため細くなるのです。そしてスプリンターが鍛える腸腰筋こそ、太ももスイング速度に最も寄与する筋肉なのです。ちなみに腸腰筋は大腰筋と腸骨筋という筋肉が合わさった筋肉でサッカーのシュートなど脚を振り出す際に使われます↓
太ももスイング速度を改善する方法
それでは実際に太ももスイング速度を上げるためのエクササイズを見ていきましょう!実際に当店でお伝えする一部になりますが、効果は実感していただけるはずです。
①補強
ここでは、ハイレ・ゲブレシラシエのような太ももスイング速度を実現するための補強を紹介します。
・腸腰筋上体起こし
体育座りの姿勢で腕は前ならいの状態を取ります。そこから手首から肘が膝を通り過ぎる程度に上体を前後屈していきます。腕は床と平行を維持、腰や背中が丸まってお腹の力が抜けないようにまっすぐにして行います。股関節の内側がキツくなっていたら腸腰筋がしっかり使われています。これに苦手意識のある方は、気づいたらやるくらい習慣化しましょう。/目安10回3set
②ドリル
ここでは、ハイレ・ゲブレシラシエのような太ももスイング速度を実現するためのランニングドリルを2つだけ紹介します。
Aスキップ
意識ポイント;膝を腰の高さくらいに挙げるよう振り出しを強調しつつも、軸足で「押す」ことも大切です。押す動きに反応して反対脚の振り出しもサポートされる感覚を意識してみてください。/6〜10歩×左右1〜3set
片足のピックアップ
意識ポイント;これも引き上げ(ピックアップ)動作も大事ですが、反対脚で押し出す動きも意識してください。特に最初はどちらか苦手な方があると思うので、そちらを多めに実施しましょう。/6〜10歩×左右1〜3set
おわりに・大森の練習;2024年9月19日から21日
これらのドリルや補強を行うことは太もものスイング速度にスイッチを入れるためのものです。実際に動きとして身につけるには、ただ走り込むだけでなく、インターバルやテンポ走といった比較的速い動きの中で養うと効率いいです。そうすることで細い膝下も手に入るのです。ハイレ選手のような「皇帝」と呼ばれるランナーになるのは簡単ではありませんが、彼のランニング技術を学ぶことで、あなたのパフォーマンスも飛躍的に向上すること間違いありません。
今回紹介したエクササイズを日々のトレーニングに取り入れて、細い膝下と高速な太ももスイング速度を手に入れましょう!次回の記事でも皆さんとお会いできること楽しみにしています。ご閲覧ありがとうございました!
以下は私の2024年9月19日から21日にかけての練習内容です↓
19日;400×7水ヶ塚(クロカンアップダウンあり)
10kmペースからハーフマラソンペース rest30秒
タイム:392mごと()内はrest心拍数
73.69(157)74.44(166)74.59(171)74.37(176)75.42(177)76.20(175)77.87※184spm
コメント:昨日落ち着きすぎたと書いたが、どうも調子が上向かない。若干体調不良。グリコーゲン不足か?心拍数もあまり追い込む前に身体が疲労してしまう。少し休む必要があるか。あまり気にせずにjogで繋ぐか。とにかく捕食を摂るようにしよう。
20日;8kmjog芝 ロード 平均ペース(/km);5:12 平均心拍数(/分);148 平均ピッチ(spm):158
コメント;右足後脛骨筋腱の痛みは減ってきたが、逆に腓骨筋に痛みがある。暑さもあった。日がかげると少し楽だが途中キツすぎて止まったりもした。やはり今年の夏は暑い。鳩尾あたりを意識しすぎて腰椎の反りが出たか、かえってきつかった。なかなか動きが安定しない。
21日;1.6km×2水ヶ塚クロカンコース(アップダウンあり) 10kmペースからハーフマラソンペース rest5分
タイム:mごと()内は心拍数
①76.37(125)77.30(149)79.09(165)79.02(160) ※184spm
restjog(137)
②76.78(147)80.03(168)81.08(167)80.42(165)※185spm
コメント:何かがおかしい。暑さで身体の倦怠感があるだけかと考えたが、精神的にもストレスを感じていた。右下腿のシンスプリントも少しあったが、涼しい、というか少し肌寒く感じる水ヶ塚でも、走るほどに調子が崩れていく。走らないことに対する罪悪感に飲み込まれオーバートレーニングになっている。流石に気づくべきと感じた。気持ちが上向くまで、いったん走ることから離れてみよう。とにかく1日だけ全く走らないで様子をみる。